「郷愁と彼方の非線形」―TR-08を使ったリズム

「Zoo Bee Doo」―それは幸福のための未来への喜び

【Cubase画面。「Zoo Bee Doo」の主要なパートのシーケンス】
当ブログの更新が夏からしばらく途絶えてしまったことをお詫びいたします。アルバム『Gの洗礼』は目下、いい感じで制作進行中。たとえば普段、南米のフエゴ諸島のあたりを自前の(ちょっと古い)地図で眺めていると、何かしらアイデアが浮かぶことも。アルバムの中身に関しては、前回の「アルバム『Gの洗礼』は空前絶後の大傑作アルバムに?」もご参照ください。
今回はアルバム収録曲の一つとなる「Zoo Bee Doo」(ズービードゥー)という曲について紹介したいと思います。
「Zoo Bee Doo」――この“ズービードゥー”というのは、儀式のおまじないのスキャットのようなもので、本当はセルクナム族の言葉ではありません。“ズービードゥー”はあくまで私がこの曲の歌詞として考案した造語です。
ただし、本当の話、セルクナム族の末裔の女性が遺したハインの儀式の詠唱(セルクナム族のシャーマンであったロラ・キエプヒャによる1966年の録音)を聴くと、鳥(おそらく梟)の鳴き声をモチーフにした詠唱のフレーズの反復があり、なんとなくそういったフレーズの断片を聴いていると、“ズービードゥー”の造語もさほど違和感はないように思われます。「Zoo Bee Doo」という曲に課せられた音楽的構成は、こうした詠唱が元になっています。セルクナム族のそれをまったく真似してスキャットにするのではなく、あくまでそれは叩き台として参考にし、自分なりのアレンジに仕立て直したものとしてです。

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【信頼のおけるUVIのFalcon。ちょっとヴァージョンの古い画像】
先日、この曲の主要なパートの打ち込み作業をおこないました。実際的な作業は、Cubaseを使って個々のパートの演奏のMIDIデータの記録ということになります。エレキギターのフレーズを取っ掛かりとし、それに合わせてアコースティックギター、シンセ・ベースを加えていくといった順でベーシックな構成がかたちとなっていきました。
おそらくこの曲は、アルバムのいちばん後ろに置かれるべき曲になるのではないかと思っています。何故ならこの曲には、我々一般人の感覚からしても、日常に降りかかる困難からの、「愛や言葉による克服」といった“明るい兆し”が感じられるからです。今アルバムにはこうした民族や文化圏を越えた、ごくごく純粋な、人々の「未来への幸福な道程」を暗示させたいという思いもあります。

「Zoo Bee Doo」の主立ったパートの音源を大まかに紹介します。だいたいが、UVIのFalconが軸となっています。
1975年に登場した化け物的シンセ・ワークステーションSynclavier(当時数千万円もしたシステム!)をモデルにしたUVIのThe Beastによる音源のシンセ・ベースがこの曲の肝。リズム・パートはNative InstrumentsのBattery 4で手堅く進行し、パーカッションはSoundironのMotor Rhythmsの音源を使用しました。このMotor Rhythmsは、いわゆる自動車の部品のホイールやポリタンクなどをドラムセットにした面白いサンプルで、この曲のリズムの特徴的なサウンドになっています。全体としては軽いタッチの曲であり、人々が手をつないで踊っている様子がもし想像できたら、というのがこの曲の目指すところです。

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【世界地図を眺め、南米のフエゴ諸島に思いを寄せる】
ホームページ[Dodidn*]のコラム「浮遊―透明なパンツ、透明な歌声」でも触れていることなのですが、今年の夏から秋にかけて、一度アルバムの制作は立ち止まった形となり、あらためて全体の構想の“変更”を余儀なくされました。
それは言わば、個人的に降りかかってきた“愛の縺れ”の瑣末を解決するのに必要な時間でした。なんとか奮闘した結果、それはそれで一定の収拾(完全な決着ではない)がついたのだけれど、様々な感情が宙を彷徨い始め、音楽と向き合っている最中にその表現の度合いなり色合いなりが変化してしまい、手を加えて変更、変更、さらに変更…という状態が続いていたのです。まさに音楽は生もの。決して放置してはならない「生きた作品」を扱っているかのようでした。

このアルバムのコンセプトにある、「文明や社会とのネゴシエーションの《衝突》」は、感情としての怒りや断罪そのものとなり、時にはヒステリックな縺れとなることも含まれます。お互いの「愛」や「言葉」が、それを克服するのだ、という部分においての表現=作品も、この『Gの洗礼』の曲の中に内在しており、それは単なる机上の思考や漠然とした言葉あそびなどではなく、私自身がまさに今、経験したことを投影させた必至のメッセージということになると思います。
命を大事にするということ。人とのつながりに価値を見出すということ。そこにこそ未来があること。壮大なテーマとだと思われるかも知れませんが、身近に起こっている瑣事から、「言葉」の大事さや「愛」の問題、あらゆる困難を乗り越えていくヒントを導き出したいと思っています。

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