羊とグアナコ―その刹那の遊宴

童心に立ち返って―「Bisco Fuzz」のレコーディング

【堂々と恰幅のあるビスコ缶。そしてJD-Xi】
失敗を怖れず。失敗をもうまい具合にして取り込んでしまえ――という心構えの、ちょっとしたお遊び。実験のたぐい。「初夏の沐浴」と同様、ちょっとした遊び心に発露されて試みたレコーディング。お菓子のビスコ缶を指で叩いてリズムにし、シンセ・サウンドを加えたちっぽけな120秒曲「Bisco Fuzz」

思い立ったのは、昨年の初秋の頃。2011年の東日本大震災以後、備蓄用の食品として保管していたビスコ(グリコの乳酸菌をたっぷりと含んだ美味しいビスケット!)が、消費期限ぎりぎりだったので、これをすべて平らげるべく封を開けたビスコ缶。数日かけてムシャムシャとビスケットを食べ終わり、いよいよ缶だけが残って、これは何かに使えないだろうかと思ったわけです。あれ? 指で叩いてみればなかなかコシのあるいい音が…。じゃあこれ、一度叩いた音を録ってみようかと思い、缶をビニル袋にしまって大事に保管していたわけです。

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【ビスコ缶リズムの録りで使用したSONY C-38B】
さてそれから数ヵ月が過ぎ、先日、ようやくレコーディングを決行しました。事前に準備という準備は何もしませんでした。
久しぶりにビスコ缶を出してきて、ちょっと手に取って叩いてみて、これ、どういうふうに叩けば小気味いいリズムになるだろうかと思案した結果、缶のプラスチック蓋の部分を太鼓の皮に見立て、その中央を人差し指と中指で連打するという方法がベターかなと思いました。まあ尤もこれは、誰でも思いつくやり方(=2本指で連打)であって、別段このビスコ缶を太鼓代わりにして一生食っていくというミュージシャンでない限り、初歩的なスタイルだと思うわけですが、確かに出音はいい感じになります。

この音を録音するには、多少空気感も必要だろうなあと考え、マイクロフォンはコンデンサー型のSONY C-38Bを選択しました(ローカット・スイッチの選択は“M”)。邦楽器の録音を得意とするこのマイクロフォンならば、中域のいいところをとらえてくれるだろうと思ったのです。ちなみに、C-38Bの単一指向性における出力電圧周波数特性は、1.8kHzあたりでわずかにレスポンスが下がり、3kHzあたりで微妙に上がり、高域の6kHzから10kHzにかけてレスポンスが高くなって、20kHzにかけては急激に落ちる、といった傾向です。逆に言うと、中低域が比較的フラットであるから、いかなる楽器や人間の声でもしっかりとコシのある音が録れる、という理屈になるでしょうか。

【UAD Neve 1073 Preamp&EQ】
ビスコ缶を指で叩いた時の音というのは、ある程度モコモコとした余分な低域を含んでいる状態であり、中低域成分の倍音がきわめて柔らかく密度が高く、おそらく4kHz以上はほとんど含まれていないのではないかと思います。なので、近接で録っても少しマイクロフォンから離れて録っても、さほど変わりない音になります。その点ではレコーディングは楽でした。この録りでは、UADのNeve 1073 Preamp&EQでゲインを上げ、EQはいじっていません。さらにNeve 88RSチャンネル・ストリップに通します。ここでピークを抑えてツブを揃えるための、やや深めのコンプ処理をしました。

【「Bisco Fuzz」のオーディオ・クリップ】
どういうリズムを打つかについては、数回ほどのリハーサルを通じて決定し、2分ほど演奏を続けてみよう、そして反復のリズムが崩れだしたタイミングでフェルマータ的な解釈をとってアウトロにしよう、という暗黙のルールを頭に念押ししておいて、数テイクほどPro Toolsで録りました。このうちの2つのテイクを繋ぎ合わせ、もう1トラック、リズムをつけたし。こうして120秒弱のベーシック・リズムを形成。
これに加え、Roland JD-Xiシンセを使って8パートをオーバー・ダビング(合わせて全10トラック)。なんとか曲らしいものが浮かび上がってきました。

ビスコ缶リズムの録りのクリップで、2つのテイクを繋ぎ合わせる際、中間のアドリブ・ソロ的な部分の、リズムの崩れるのが面白いと思い、それをNGとせず残したわけですが、本来ならばメトロノームを使い、きちんとテンポに沿って演奏すべきなのです。ただそうすると、全体のテンポのゆらぎが消え、ある意味面白くなくなるわけです。そしてまた、こうしたものを何度も何度もテイクを重ねて録っていくと、だんだん簡素な旨みのないベーシック・リズムと化し、それだったら何もビスコ缶を使わなくてリズムマシンでいいんじゃないの、ということになります。遊びを遊びのまま記録する、録りは数テイクにとどめておいてその中からエディットする、という容赦ない英断も、時には必要なのではないでしょうか。

ということで、この「Bisco Fuzz」、完成までしばしお待ち下さい。
次回へ続く。

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